top of page

ラブ・イン・ア・ミスト

HALYA

 ――さあ、今日も最高の悦楽を迎えるための前戯を存分に愉しもうじゃないか。

 

 広大な領地の中に構えられた、これまた広大な敷地を持つ邸宅の一室。主人の趣味の良さを窺わせる瀟洒な調度品に囲まれたその場所で、光忠は同じテーブルを囲む取引先の人々を見据えていた。

「……それじゃあ、来年度の取引内容はそんな感じで頼むよ」

「かしこまりました。来年度も変わらず我々をどうぞよろしくお願い申し上げます」

 そう告げて深々と頭を下げる男たちに、光忠はそれまでテーブルに突いていた両肘を離し、手は組んだまま椅子の背凭れへと寄り掛かった。そして挑戦的な笑みをその顔に湛えて彼らを見据える。

「君たちの働きには僕も大いに期待しているんだ。その期待に応えてくれる限り、僕は君たちへの助力を惜しまないよ」

「ありがたいお言葉、誠にありがとうございます」

「そのためにこれからも励んでくれ。……長谷部くん。彼らを玄関までお送りして」

 光忠が背凭れ越しに見上げると、それまで光忠の後ろに控えていた長谷部と呼ばれた燕尾服の男が胸に手を添えて小さく会釈をする。

「かしこまりました」

 そして長谷部の声掛けで彼らは一斉に立ち上がり、光忠のいる部屋を後にした。

 

「……無事に全員帰ったぞ」

 彼らが退席していくらか経った頃に、長谷部が部屋へと帰ってきた。そして語尾が砕けたその言葉を耳にすると、光忠はそれまでの領主然りとした鷹揚な雰囲気を緩めて長谷部を見つめた。

「長谷部くん」

 先ほど彼らの前で呼びかけた声とはかけ離れた甘い声で長谷部を呼ぶ。すると長谷部も先程とは違った捕食者のような瞳で光忠を見つめ返し、彼の声に引き寄せられるように歩を進める。そして光忠の頬をシルクのグローブで包み込むと、その耳元で囁いた。

『Good boy』

 長谷部から紡がれるコマンドで、光忠は嬉しそうな表情を浮かべ、彼の腰を抱き寄せた。そしてそのまま己の膝の上へ誘い、大事そうに背中へ手を這わせる。

「長谷部くん」

「なんだ」

 己の胸に納まる光忠の頭を撫でながら、長谷部は応えた。まるで甘える猫のように胸へ頭を擦りつける光忠を好きにさせていると、おもむろに彼がこちらを見上げてきた。

「今日も頑張ったご褒美、ちょうだい?」

 その表情と声は長谷部に甘えきったものであったが、満月色の瞳には紛れもなく長谷部を食い尽くしたいと望む猛獣が宿っていた。それを正しく捉えた長谷部はこれからやってくる快感を予期して人知れず背筋を震わせ、そして光忠の唇へと近付いた。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 

 長谷部の家は代々、燭台切家に執事として仕えてきた。長谷部の父も先代当主に仕え、そして生まれた長谷部も同じく燭台切家に仕える者として育てられてきた。

「長谷部、ご当主様がお呼びだ」

 自室で図鑑を読んでいた長谷部のもとへ父がやってきた。ここ最近は奥方の出産で屋敷は忙しなくしており、まだ幼く仕事に携われない長谷部は邪魔にならないよう、なるべく自室で過ごすことにしていた。

「俺を、ですか?」

「ああ。早速若様にお前を会わせたいそうだ」

「わかりました」

 長谷部は図鑑を閉じ、椅子から降りると服の皺を払って父の元へ駆け寄った。奥方の懐妊が判明した時点で、長谷部の未来は決まった。無事に生まれれば、その赤ん坊は長谷部の主となるのだ。そして無事に子供は産まれ、その子は男の子であった。長谷部は父と同じく時期当主の執事になることが明確に決まったのである。

 

「来たか」

「お待たせ致しました」

「失礼致します」

 新しく設けられた子供部屋の戸を叩き、長谷部は父と連れだって室内へと入っていく。そして中で待っていた当主へ頭を下げると、彼は長谷部に向かって嬉しそうに手招きをしてくれた。長谷部が静かに彼の元へ近寄ると、傍にあるベビーベッドを覗くように促された。

「そこの台に乗って覗いてごらん」

 長谷部のために用意されたのであろう踏み台へ足を乗せ、恐る恐る中を覗き込む。

「……、」

「私の後を継ぐ、お前の主になる男だ。名前は光忠」

「、はい」

 当主の言葉に辛うじて返事をしながらも、長谷部はベッドの中を見つめ続ける。そこには生まれて始めて見る、この世に生を受けたばかりの赤ん坊の姿があった。まだ紅いけれど、色白であることが窺える肌に、太陽の光を溜め込んだ満月色の瞳。肌理の細かい張った頬が、長谷部を捉えてえくぼを作った。その姿と微笑みに、長谷部の心は一瞬で盗まれていってしまったのだった。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 

「若様、おはようございます」

「んう……おはよう、長谷部くん」

 光忠の居室を訪い、臙脂色のベロアカーテンを開くと長谷部はベッドで眠る光忠へ声を掛けた。共に成長し、いくらか歳が上の長谷部は少し前から本格的に光忠の執事として仕えるようになった。光忠も幼少期から長谷部によく懐き、何かにつけ長谷部を頼るようになっている。

「今日は私が早く出なければならないので、申し訳ありませんが、先に学校へ向かわせて頂きます」

「長谷部くん。『私』になってる。せめてそこは昔通りにしてって言ってるじゃない」

「……すみません」

「二人だけなんだからさ」

「俺は先に家を出ますので、今日は別々に登校させて頂きます」

「そっか、一緒に学校行かれないんだね」

 長谷部から告げられた言葉で光忠は露骨に落胆した声を出す。学年は違うが同じ学校に通う二人は、基本的に登下校と昼休みは共に過ごすことになっていた。しかしたまにこうして別々の登校になることがある。今日は長谷部の学年で先日行われたダイナミクス検診の結果が出る日であったため、長谷部は早めに呼び出されていた。

「昼休みはいつも通り一緒に昼食を摂れますので」

「じゃあ、カフェテリアで待ち合わせね」

「はい」

 光忠は長谷部からの返答を聞くと嬉しそうにベッドから飛び降りた。そしていそいそと自分で身支度を始めた光忠を手伝うと、長谷部は一足先に学校へと向かっていった。

 

「長谷部くん、だったね」

「はい」

「君の検査結果についてなんだが」

 先日の検診でも来校していた訪問医が座る椅子の向かいに姿勢良く腰掛け、長谷部は彼の言葉に耳を傾けた。

「まだ自覚症状は出ていないと言うことだったが、君のダイナミクスはDomであることが判明した」

「……そうですか」

「君が燭台切家に仕えていることも伝え聞いている。まだ断定は出来ないが……もしかしたら、君のDom性は他のそれよりも強く出る可能性がある」

「具体的には?」

「そこは本当に十人十色だ。人によってDom性を満たす条件は変わってくる。身体面であったり精神面であったりと言った根本的部分からね」

「はあ……」

「そこは自覚症状が出てこないとわからない部分が多い。ただ、君は誰かに仕えるという立場にいる人間だ。もしかしたら今後、君のダイナミクス性が仕事の妨げになる可能性も出てくる。いくら代々続いているものだとしても、本能に逆らうことは心身に相当な負荷が掛かるものだ。抑制剤を飲むことで緩和されることもあるが、職を離れるという選択肢もあると言うことを、現段階で頭の片隅に置いておくことを勧めておく。これは君だけが抱えるだけで済む問題では無い。君も、周りの人も辛いことになりかねないからね」

「わかりました。……しかし、現段階で俺に若様のお側から離れるという選択肢はありません。俺は、彼がこの世に生まれ落ちたその瞬間から、彼の執事として生きることを心に決めました。その気持ちは今の診断を聞いても変わることはありません」

「……そうか」

「幸いにも自覚症状はまだ出ていませんし、若様もまだダイナミクス性が判明するには小さくていらっしゃる。互いにそれらがわかるまで、俺は若様から離れるつもりはありません」

 毅然とした長谷部の態度に、訪問医は小さく息を吐いた。

「なんとなくそう言うだろうと検診の時の態度を見て感じていたよ。……なにかあったら私の病院へ来るといい。燭台切の家とも懇意にさせてもらっている。こちらからもお家へ伝えておくから。くれぐれも、無理だけはしないように」

 そう言って差し出された紙片を長谷部は丁寧に胸ポケットへしまい、部屋を後にした。

 何を言われても、この身に何が起きても光忠の傍を離れたりなどするわけが無い。彼と目が合ったあの瞬間から、長谷部の全ては光忠のものなのだ。

 そして長谷部があの時に感じ取ったものは間違っていなかったのだと、数年後、判明する。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 

 長谷部の診断を受けてから幾年かが経過したが、相変わらず自覚症状が現れることは無かった。あの時の医師の診断は間違っていたのでは無いか、本当はNormalなのでは無いのかとさえ、長谷部は考え始めている始末だった。

 気が付けば光忠の身長は長谷部のそれを抜き、体躯も厚みが増し始めていた。彼の傍にいる以上、彼の身も守れるようにと長谷部も身体を鍛えているけれど、遺伝的に筋肉の付きにくい己の身体はいとも簡単に成長期の光忠に抜かれてしまった。

 しかし性格は変わらず、二人きりになると長谷部に甘えることの多い光忠であった。長谷部も執事であるが年上の自分だからこそ甘えてくれているのだと人知れず嬉しくなり、彼の好きなようにさせていた。

「若様。そろそろ一休みされてはいかがですか?」

 最近になって家の仕事を少しずつ任されるようになった光忠へ長谷部が静かに声を掛けた。すると光忠もそれまで机に向かっていた頭を上げ、両手を上げて伸びをする。

「そうだね。お茶にでもしようかな」

「かしこまりました。紅茶の用意をして参りますね」

「ありがとう。でも、今日はハーブティーにしてもらおうかなあ」

「……お体が優れないのですか」

「いや、長谷部くんがそこまで心配するほどじゃないから大丈夫だよ。ちょっとぼんやりするかもなって位だから」

 光忠がそう言うより早く長谷部は光忠の元へ歩み寄り、すかさずグローブを脱いで彼の額へと素手で触れた。

「失礼します。……熱はまだ無さそうですが……念のため、今日の執務はここまでに致しましょう」

「、うん……」

「お身体が温まるハーブティーをご用意致します。若様は先に寝室へ行っていて下さい。今日はもうお休みになった方がいい」

「そう、だね」

「では、俺はキッチンへ行って参ります」

 そう言って部屋を後にする長谷部の背中をぼんやりと見つめ、光忠は彼が触れた額を掌でそっと撫でさすった。普段中々見せることの無い長谷部の素手は、己のそれより少し冷たくて、そして優しい手触りがした。

「……部屋に、行ってなくちゃ」

 先ほどよりも少し身体も熱くなってきた気がする。もしかしたら長谷部が言ったとおり、これはもう寝た方が良いのかもしれない。

 光忠は少し覚束ない足取りで椅子から立ち上がり、寝室へ向かおうと絨毯の敷かれた床を擦るように歩き出した。

 

 キッチンへ隣接する菜園で手ずから摘み取ったハーブを使って作ったハーブティーと蜂蜜、念のための薬をカートに載せて、長谷部は光忠の寝室へ向かった。起床した段階では目立った体調不良は見られなかったはずだが、少し仕事を頑張りすぎてしまったのだろうか。いずれにしろ、己が傍にいながら気付けなかったことに自責の念を抱きつつカートを押していく。そして目的の寝室へ辿り着くと開閉の邪魔にならないよう扉の横へカートを置き、ノックしようと手を上げた。するとその瞬間、室内から大きな物音が聞こえてくる。重量を感じるその音は、おそらく光忠の身体に何かが起きたということを知らせている。もしや倒れて何かにぶつかってしまったのだろうか。瞬時に頭の中に過った不安事項を振り払い、長谷部は即座にドアノブへと手を掛けた。

「若様!」

 呼びかけと共に部屋へ足を踏み入れる。するとそこには絨毯へ倒れるように座り込む光忠の姿があった。幼少の頃から格好良さを第一に考えて行動するような彼がそのような状態になるなんて、よほどのことである。長谷部は光忠の元へ駆け寄り、その両肩へ手を添える。

「若様、若様。大丈夫ですか? お怪我は……、」

 光忠の肩を撫でさすりながら長谷部が彼の身体を見回していると、突然その腕を掴まれた。それは今まで彼が長谷部へ甘えてきたり、支えてくれたりする時に触れてきた優しいものとは一線を画していて、その力の強さに長谷部も思わず怯んでしまう。そして何事かと彼の旋毛を見つめた。するとおもむろに旋毛が動き、今まで漆黒の髪に隠れていた彼の相貌が姿を現した。光沢を帯びるかのようなその唇で、彼はこう紡ぎ出す。

「光忠、って、よんで……長谷部くん」

「、」

「お願い……光忠って呼んで、ずっと僕の傍にいて……おねがい」

 震えるような声で囁き、掴んだ腕を己の頬へ連れていくと、その掌へ頬を擦り寄せた。そして長谷部を見上げてきた潤んだ瞳に、長谷部は全身が総毛立つのを感じた。

 やはり、自分と彼は、運命だったのだ。

 あの日、あの時この場所で。

 時を経ても変わらぬ光を湛えた満月は、ただひたすらに、己を求めて見つめていた。

「……光忠」

 主が望むよう、その名を呼んでやる。彼がこうして何かを望むのも、それを叶えてやるのも自分なのだ。そして叶えてやればほら。

「ふふ、はせべくん……」

 この世の幸せとでも言うかのように柔らかく微笑み、この掌へと甘えてくるのだ。

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 

「やはり、光忠はSubだったよ」

「そうですか」

 後日、光忠の父である当主の執務室へ呼び出された長谷部は神妙に頷いた。

「燭台切家の当主は代々Domであった。だから、正直なところ光忠がSubになるとは予想していなかった」

「はい」

「私には光忠しか世継ぎがいない。養子を迎えるつもりもない。このまま、変わらず光忠を時期当主とするつもりだ」

 当主は一度言葉を切ると、それまで窓の外を見つめていた顔を長谷部の方へ向き変えた。

「光忠は、お前をこそが自分のパートナーだと言っている。……長谷部、お前はどうだ」

「……ご当主様もご存じの通り、私はこれまでDomと診断されて参りましたが、自覚症状は一切ありませんでした。しかし、若様が目覚めたあの時……私の中のDomとしての本能もまた、目覚めました。もし、若様が望んで下さるのなら、私はその全てを、叶えて差し上げたい」

「……そうか」

「私のおこがましいこの願い、許して下さいますでしょうか」

 長谷部が恐る恐る願い出る。互いが共に一生のパートナーとなってしまえば、燭台切家を継ぐ嫡男が今後生まれることはない。長谷部は彼から呼びつけられるより前から死をも覚悟し、今日この場に臨んでいた。

「……光忠のことはもちろんだが、生まれる前から知っているお前のこともまた、息子のように思っている。先ほども言ったように、我が家は代々当主がDomの家系だ。光忠には今後、表へ出るときはDomのように振る舞ってもらわねばならない。その教育も、そのストレスからの癒やしも全てお前に背負わせてしまうことになるが、構わないか」

 当主の言葉を聞いて、長谷部は胸に手を添えると、深々と頭を下げた。

「全てを私に委ねて下さるなど、ありがたき幸せ。光栄の至りでございます」

「……光忠を、よろしく頼む」

「承知致しました」

 

 

    ◆ ◆ ◆

 

 

 その日から、二人きりの時の長谷部の態度は砕けたものへと変わっていった。敬語は無くなり、光忠のことも名前で呼んでやる。彼は特に長谷部に名前で呼ばれることをひどく好むようだ。皆の前ではDomのような振る舞いをするという負荷を負っているせいか、プレイを行わなくても名前を呼ぶだけでSubスペースに入ることもある。自分の発したもので幸福感に満たされ恍惚となる光忠を見るのは、長谷部にとってもこの上ない幸せであった。

 長谷部が手ずから躾けた光忠は、周りからはとても優秀で特に優位な位置にいるDomであると思われている。そして長谷部も、主に従順なSubと思われているようだ。

 二人は主従でありながら、ダイナミクス性が反転している。しかし互いの身体の関係性は、光忠がトップで長谷部がボトムという少し込み入った関係性を持っていた。そのため、光忠が心置きなく長谷部へ奉仕が出来るよう、長谷部もセーフワードを持っている。

 それは彼らが身体を重ねるようになってから幾たび目かのことだった。長谷部の弱いところを中から突いてやると、長谷部がたまに「いや」と言う言葉を発することがあった。その日も思わず出してしまった言葉に長谷部はしまったと思ったが、光忠はその表情に気付くこと無く律動をやめ、しきりに長谷部へ大丈夫かと聞いてくるので、長谷部は一度光忠に中から出るように指示して自分も身体を起こした。自分も決して本当に嫌な訳ではないし、むしろ気持ちが良くて出てしまった言葉だ。光忠も己の欲望をギリギリの理性で宥めて自分を気遣い、そして今も大人しくしている姿は己のダイナミクス性が滾り満たされると共に愛おしさが湧いてくる。今すぐにでも再開して欲しい位だが、ここは今後のためである。長谷部は光忠に向き直り、静かに諭した。

「光忠。俺のセックス中の『ダメ・イヤ』は気持ちいいからもっとしろ、ということだ」

「……つまり、」

「俺が『ダメ・イヤ』と言ってもやめるな。それは『もっと寄越せ』と言ってるのと同じだ」

 しかし光忠は肩をすくめると、上目遣いに長谷部を見つめた。

「でも、それだと長谷部くんが本当にやめて欲しいときにやめられないよ」

 光忠がしょげたような声で告げると、長谷部はそれもそうかと顎に手を当て思考を巡らす。快感でいくらか回転が鈍っているが、可愛いパートナーのためだ。考えることをやめる選択肢は無い。そしていくらか考えた後に、ひとつの案がひらめいた。

「わかった。そしたら、俺にもセーフワードを設けよう」

「長谷部くんにも?」

「そうだ。セーフワードがSubにだけ、という形式が主立っているのは往々にしてSubが抱かれる側というのが多いからだ。俺たちは立場もダイナミクスの関係性も他のカップルとは勝手が違う。それに何より俺はお前に辛い思いをさせたくないんだ」

 長谷部からの提案に、光忠は目を輝かせた。そして嬉しそうに長谷部へ抱きつくと、耳元で愛の言葉を連呼する。

 

 ダイナミクスは被支配と支配。しかし立場上の関係性は主人と執事。そんなあべこべの自分たちだが、その中核に存在する心はあくまでも対等である。それを互いに理解しているだけで、本能に揺り動かされても安心していられるし、みんなの前で見せる偽りの関係性にも倒錯的な悦楽を感じて楽しむことが出来る。表と裏をどれだけ行き来しても、己を見失うことは無い。なぜなら自分たちの中には、互いの帰れる場所が息衝いているからだ。

bottom of page